エングラム
「駅から歩いて半時間、近いとこに良い花屋あるよ」
「半時間って、30分…。それ近いのか?」
私が言って、くつくつと笑い合う。
「じゃあ、近くはないが遠くはない場所」
委員長が言い換えて、それ良いねと私は歯を見せた。
「…に、花屋あるんだ」
に、を強調して言い委員長に確認する。
「あるあるArpeggioっての」
「アル、ペ、ジオ」
ストンとその言葉が体に溶けた。
懐かしい響きだと直ぐに思った。
懐かしさを感じるような言葉ではないはずなのに。
「一緒に行くか?」
委員長が頭をかいて視線を外しながら言った。
「ありがたいけど、いいよ」
顎に手を当てながら、私は断る。
「…ま、迷子になるぞ?」
──迷子という響きに、言葉に笑顔を見せる。もうなってるよ、という意味を込めて。
「……いいなら分かったよ」
委員長は何故か恥ずかしそうにニキビのできた頬をかいて、一人頷いた。
「一緒に行きたかったら言えよ!」
委員長は視線を宙に浮かせて、口早に言った。
「あぁうん、ありがとう。──さすが委員長。面倒見が良いんだね」
私が素直に言うと、委員長は肩を落として頷いた。