エングラム
その日の学校が終わると、私は駅に向かった。
制服のままで、寄り道で。
たまに校外に立ってる生活指導の先生に会わないようにと願いながら。
お金は今朝貰っていたので、財布を出してそれを使う。
ホームで電車を待っていたら、向こう側のホームにいた少年と目が合った。
特になんともなく、お互い直ぐに逸らした。
綺麗な亜麻色の髪をした、片腕にギプスをつけた学ランを着た少年だった。
隣にはブレザーを着た女の子がいて、姉弟かカップルかだな、と予想した。
しばらくすると電車がやってきた。
冬の車内は暖かい。
外との温度差に、電車内に入った瞬間ブルッと体が小さく震えた。
適当に空いていた座席に座った。
道は難しくないと委員長が教えてくれたので、迷わずに着く自信があった。
隣に座った派手めな青年が、イヤホンをつけて鼻歌を歌っていた。
今流行りの、ヒットソング。
「………」
歌うなら、THE BEATLESのHere ,There and Everywhereとか、Golden Slumberとかにしてほしいなぁと何故か感じた。
そう感じたことに気を留めず、窓に額をぴたりとつけた。