エングラム
「この花の名前だ」
そう彼は言って、一輪それを手にとる。
私の心臓の音が、彼の低音の邪魔をする。
「花言葉は、個性的。そして」
私は知ってる。彼の横顔を。続きを。
「心の扉を叩く。そして──永遠の幸福」
彼は私に、その花を手渡す。
固い手に触れた指先が熱い。
ただの店員と客とは、違う。
「紫蘭」
花の名前のつもりだったのか。知らないはずなのに、私の名前を呼んだのか。
「たとえ忘れても、オレは忘れない」
ラブソングが流れてる。甘い香りにクラクラする。低音ボイスが耳を舐める。
「──永遠と、変わらぬ愛と。お前の名に掛けて誓ったことは、消えない」
彼の目が愛おしむように細められていた。
胸が熱い。
「忘れなかった。──誓いを、お前を」
その言葉の意味を、私は知らない。
だがそれを受け取ることが出来た。
「─────……シイ…」
迷子は誓いを道標に、出会う。
fine.
I'm here to keep a promise with you of desperado.
(オレは迷子のお前との約束を守るために此処にいる。)
「──いつかって約束していること、たくさんあったな」