エングラム
「そのジャケット暑くないですか?」
シイを少し見上げて、私は尋ねる。
「結構生地が薄いんだ、まぁ暑くないわけじゃないが」
そうなんですか、と私は答える。
「格好良いですね」
「オレが?」
「いやジャケットですって」
そう私が即座に答えると、あー、とシイは間延びした声を出す。
そしてそのジャケットを少しつまむと私に言った。
「これユウとオレがデザインしたんだ」
黒い生地に、ところどころ控え目につけられた金色の刺繍。
ボタンも金色。
「黒は外部からの影響を受けにくくて、自分を守る色なんだ」
「そうなんですか」
「あぁ。逆に外部に影響を与えやすくて、誰かを動かしたい時に向く色でもある」
「よく知ってますね」
私がそう言うと、眼鏡をくいと持ち上げ、軽く口元を笑わせる。
「一度色彩心理学に興味を持ってな、だからだ」
「今はもう?」
「あぁ、今は」
そうなんですかとだけ、私は言葉を返す。
そうすると、しばらく私たちの間に静寂が下りた。