エングラム
「戻るか」
シイはそう言った。
「え?ファミレスにですか?」
私が尋ねると、シイは少し頬をかく。
「あいつらファミレスは出てるかもな」
「あー…じゃあ私帰ろうかな」
顎に手をあてて、私は独り言のつもりで言った。
「心配だな」
シイは私を見て額にシワを寄せる。
「近くまででも、送るぞ」
その気遣いは、大人なオトコを十分に感じさせた。
たかが14の同級生とは全然違う。
さすが21歳。
「いえ!良いですよ、私電車で来たんで」
「…電車を使ってまでわざわざこのビルに来ようとしたのか?」
「あぁ、まぁ」
その通りなのだが、妙に答えづらく曖昧に答える。
「どうして?」
オフ状態だからか、一つひとつを私に問う。
「……」
それには、敢えて答えない。
ただ真実を、答えない答えを思い出すだけ。
「わかった、またいつか聞く」
シイは眼鏡の黒いフレームに触れた。
「いつかがあるんだ」
思いがけず、口に出してしまった。
しまったと口を抑えた瞬間、シイが答えた。
「ある」
目が合う。
「お前は目を離したら心配だ」
煩わしい、といつもなら思うところだ。
だが、無言で頷いてしまった。