エングラム
「じゃあ取り敢えず、出よう」
シイはそう言うと先に歩きだした。
少し早足にして、私もその背を追う。
シイの黒い髪が、風に撫でられる。
シイは閉じかかっていた屋上の扉を私に開いた。
紳士的な、動作。
駄目だ。私はこういうのに弱いかもしれない。
そんなことを思いつつ、
「すみません」
小さくそう言って私はその扉から建物内に戻った。
シイは私の後に入ると、さっと先に回り私の前に出る。
そして階段の一歩手前で、
「ほら」
手を差し延べた。
「…………へ?」
いや誰だってこうなるよね普通。
あなたは王子様ですかはい。
固まった私に、シイがニッと笑う。
「こういうのに弱いんだろ?」
その悪戯っけな言葉に、私は肩をあげた。
「また読んでましたね!」
「ごめんつい」
「うわ全然悪気ないですよね、シイの読むタイミングが分からないんですが」
少し拗ねたような私に、シイは笑いながら言う。
「そんなの分かんなくて良いから、ほら、手」