エングラム
「そういえばケイやユウは良いんですか?」
電車に揺られながら、私は隣に座るシイに聞いた。
「あぁ大丈夫」
根拠は何だろうと思った矢先に
「だから大丈夫だって」
またそう言われた。
「………シイ」
私は彼の横顔を見る。
「また読みましたね?」
小声で周囲に聞かれないような声で聞く。
周囲と言っても、この車両には私たち二人の他に、ほんと数人しかいないが。
「読んでないって」
「だったらなんでですか」
「つい面白くて」
「やっぱり読んだじゃないですか」
だから、ごめんって。
シイが口元に手をあてて笑う。
初めて会った日にこのおもちゃ扱いなんだろう。
「おもちゃじゃないよ」
「…また読みましたね」
ジロリとシイを睨む。
「初めて会った日だけど、お前のことよく分かった気がする」
「……」
その言葉が、私はあまり好きではない。
よく分かったなんて、理解してないからこその言葉だ。
あぁ、けど。
なぜか今、一瞬。
シイなら許せるなんて思った気がした。