エングラム
「………ナニソレお前…」
力なくそう言ってシイがうなだれた。
「は、え、私何か言い…じゃなくて変なこと思いましたか?」
「だって今オレならって……いや良いナンデモナイ」
しりすぼみになっていった彼の言葉が聞き取れず、首を傾げた。
「…取り敢えずオフにしてください」
「あぁ分かったよ」
素直な返事だが油断できない。
そして話題がないまま、電車は私の町の駅についた。
改札口を通って駅を出ると、見慣れた風景が写る。
「すみません、こんなとこまで」
シイは黒縁の眼鏡をくいと持ち上げた。
「別に構わない」
モテアソ
黒い髪がサラサラと、風に弄ばれる。
私を見ずに答えた彼の、少し高い位置にある横顔を見つめる。
うわ、綺麗な顔立ちしてるなこの人、美形だよ。
鼻高いし、首筋とか大人の色気?
「………やめろ変態…」
シイが手で顔を覆って、少し顔を背けた。
「は、え!?」
しまったさっき考えてたことか、とそう思い至り恥ずかしくなる。
「また勝手に!」
「……」
シイは答えない。
手の隙間から僅かに覗く顔は赤くなっている気がする。