エングラム
「だってあの、ちょっと顔を見てたらあのその──」
「…ごふんっ」
説得しようとしたら、シイのわざとらしい咳に阻まれた。
「よ、読まないでくださいよっ」
シイの黒いジャケットの裾を引っ張って私は唸る。
「だって」
低い声が降る。
「お前の心は、不思議だ」
喉仏が上下して、そう声が私に落とされた。
「………は?」
「からかうと楽しい」
一瞬ドキっとした直後に、すっかり見慣れた悪戯っけな笑み。
「悪かったですねー!」
引っ張っていた服の裾を離し、私は鼻息を荒げた。
「お前、心見せんの慣れてないだろ?」
ツ
核心を、衝かれる。
「普段見せてるのはポーカーフェースっつても過言じゃないだろ?」
普段なんて知らないくせに、と私は思ったまま呟いた。
「だったら教えろ」
ぐいと私の腕が捕まれた。
俯いていた視線が、シイのものとかちあう。
「オレがお前の心を開ける」