エングラム



何曲聴いたのだろう。
思わず呑まれた。彼らの唄に。

気が付いたらボーカルの少年が、マイクを握ってMCを始めていた。

「えーっとぉ…」

さっきまで歌っていた声より、少し高めの声だった。

「僕たちの曲、聴いてくれてありがとうございます。今めちゃくちゃ楽しいです」

ありがとうございますと、そう亜麻色の髪をした少年は照れ臭そうに言った。

その言い方が可愛いらしかったので、聴衆から笑い声が転がった。

「初の路上だから緊張して…いやしてない。べ別にしてないですよ?」

してないですからね、ともう一度彼は言った。
面白くて、私もクスクスと笑う。

バンドのメンバーも、肩を僅かに揺らしていた。



< 5 / 363 >

この作品をシェア

pagetop