エングラム



目についたのは、声を鳴らすケイだった。
赤より朱いベースに指を走らせながら、唄う。

ファミレスで見せた可愛らしい姿はない。
声を低く、15歳とは思えないほどところどころ色っぽく掠れさせる。

サラサラの亜麻色の髪は、午後4時とは思えない明るい太陽に透けて。
時折指先を見る目は、鋭い。


声が耳を舐めた。

ベースの低音が心臓の鼓動をのっとった。


メタリックブルーのギターを持つユウは、口の端を上げている。
金髪の合間から覗く相変わらずのキツネ目が、音を見つめる。

ケイの声に合わせて、彼の足がリズムを踏む。


ギターの研がれた音が、背を腕を震わせる。


ケイの唄う表情を見ていたら、いっそう、強く。
シンバルの音が私の頭を叩いた。

──シイと目が合う。

いや、気がしただけだ。多分だ。

スティックを持つ腕が閃く。
スネアが、バスドラが。
聴衆の脳の底に響く。

彼の黒髪は、光に透けることなく。
感情を持ったようなスネアがバスドラがシンバルの音が。


私たち聴衆の足を地に縛り付けた。



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