エングラム



その音たちが重なる唄。

それが、終わる。

シィンと、鳥が飛ぶ音さえ止み。

途端にその静寂が、ワァア、と拍手に変わった。

私も聴衆の一つとして、無意識に笑みを浮かべながら手を叩く。

「ありがとーっ」

マイク越しに、ケイが天使の笑顔で言った。

きゃー!と、黄色い声が混じり、拍手の波がいっそう沸く。

破壊力バツグンの笑顔だ。
核兵器並みじゃないかと真面目に思う。
つまりは世界規模で脅威の兵器。

なかなか鳴りやまない拍手に答えたのは──よく空気に染み込むスティックを叩く音。

刹那に静まり返り。
刹那に小さな低い声。

「ワン、トゥ」

カッ、ともう一度音がして──また曲が始まった。



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