エングラム



話し掛けたいけど。
疎ましいと思われたら。
忘れられてたら。
ただの思い違いだったら。

けど~たら、は私の口癖だ。
一人思考の中で悩みその中で結論を出す。

話し掛けたいよ。
けど、けど。


「──シラン」


「ぅおあっ!?」

自分の頭の中に沈んでいた時に、不意にかけれた低い声。

「来てくれたな」

軽く微笑んだのは、黒縁眼鏡をかけた黒髪のオトコ。

「シイ」

「居たんだって気付いてたから、声かけろ」

シイが軽く笑う。

「シイからかけてくださいよ!困ったんですからっ」

「うんうん伝わったよ」

宥めるように言われて、むぅ、とまゆを寄せる。

「──どうだった?」

答えなんてわかっているだろうに、シイが尋ねてきた。

わかっているくせに、と前置きをして。
素直に感想を言った。



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