エングラム
それからは速かった。
ケイは今日使っていた真っ赤なベースの他に、明るい黄色のベースを持っていてそれを渡された。
「アンプとかは小さめなこれかな」
そう言って、色々と渡された。
「じゃあさっそく教えてあげよーう」
ケイが拳を突き上げて、おー、と言った。
「……どこでですか?」
「あの廃ビルにしよっか、まぁコンセントとかぐらいあるっしょ」
そう言って黒いジャケットをきた彼らと私は歩きだした。
色んな人から視線を向けられて、それが怖かった。
悪意じゃないかと、何か思われてないかと。
──どうして人間は他人を見ないほど寛容ではないのだろう──
だが怯まないよう、普段のように笑顔をまとう。
笑顔こそが鉄の、冷たい最高の仮面だ。
「…大丈夫だぞ」
当たり前のように私の隣にいたシイが言った。
「え?」
「隣に居るから。──ほら足止まってるぞ歩け」
──他人を見ることも寛容かもしれない、大事なのは見方だ。
自然と笑顔になって、ベースを持つ手に力を込めた。