エングラム
それから時間を忘れて二時間ほど練習した。
「──もう七時ですよ」
ユウの言葉で慌ただしくその日の練習は終わり、毎週土曜日に私は彼らから教えてもらうことになった。
そして遅くなったからとシイが私を送ることになった。
夏とはいえ、午後七時は少し日が沈んでいた。
背中にケースに入れたベースの重み。
親は大丈夫か、とシイは野暮なことを私には聞かない。
私の親はなかなかの自由人で、“優しい”そして“良い親”だということは伝わっているのだろう。
「どうだ、ベース」
欠伸を噛み殺すことをせず、ふぁあと口を開けて隣で電車に揺られるシイが尋ねてきた。
──渡された楽譜は
THE BEATLESのCome Togethr。
「L'Arc-en-CielのShout at the devilも好きなんだけど…難し過ぎるんだよね!」
とかケイが言いながらやる曲を選んでいた。
「ビートルズは僕の尊敬するアーティスト」
ケイがそう言いながら渡してくれたのがこの楽譜。