エングラム



「四本の弦で思った通りの音を出すって難しいですね」

私はシイの質問に、だいぶ空白をとってから答えた。

「どうしてCome Togethrなのか想像つくか?」

「?まったく」

首を傾げながら私が答えると、そうか、とシイは頷いた。

私はビートルズのことをほとんど知らない。
曲初めて曲に出会ったと言っても過言ではないのだ。


土曜日の午後とあって、以前とは違い人が多くて車両内は少し騒がしかった。

少しうるさいその中で、小さく小さく。
私にしか聴かせないように、シイが何かを歌う。

「何の曲ですか?」

「Golden Slumber」

シイが答えて、また数フレーズ口ずさむ。

子守唄のような曲だ、と思った。

「あぁそうだ。──ジョンとポールが作曲した、ポールの壮大なラブソングだ」

そして電車が私の駅で止まるまで、シイは私の隣で小さく唄っていた。



< 68 / 363 >

この作品をシェア

pagetop