エングラム
「四本の弦で思った通りの音を出すって難しいですね」
私はシイの質問に、だいぶ空白をとってから答えた。
「どうしてCome Togethrなのか想像つくか?」
「?まったく」
首を傾げながら私が答えると、そうか、とシイは頷いた。
私はビートルズのことをほとんど知らない。
曲初めて曲に出会ったと言っても過言ではないのだ。
土曜日の午後とあって、以前とは違い人が多くて車両内は少し騒がしかった。
少しうるさいその中で、小さく小さく。
私にしか聴かせないように、シイが何かを歌う。
「何の曲ですか?」
「Golden Slumber」
シイが答えて、また数フレーズ口ずさむ。
子守唄のような曲だ、と思った。
「あぁそうだ。──ジョンとポールが作曲した、ポールの壮大なラブソングだ」
そして電車が私の駅で止まるまで、シイは私の隣で小さく唄っていた。