エングラム



「努力したって事実を見せ付けるの──中々良いんじゃないか」

そして私の手の平を見て口元を綻ばせた。

「少し皮厚くなってるとこあんな、たくさん練習した証拠だ」

実は見えない努力なんかほとんどないんだ、とシイは付け加えた。

──あぁもう、この人は何でこう…。

ぎゅうっ、と胸元が締め付けられる感覚がした。


近い距離でまた、微笑みを向けられる。


優しい、顔だ。


「──じゃあ聴かせてもらおっかな」

その低い声は、自分の心臓がうるさ過ぎて聞こえにくかった。

「は、はい…!」

やばいぞ自分。落ち着いて。
シイとはまだ三回しか会ってないよ。
向こうは21のオジサンだよ!

「誰がオジサンだよ」

「お願いですから今だけは読まないでぇえ!」

好きだってばれちゃう──と、思った。

思ってしまった──ら、

「あー…」

真っ赤な顔をしたシイと目が合ってしまった。



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