エングラム
「さて私も練習させていただきますね」
ユウがギターを出して言った。
チューニングを終えて、ユウが何かフレーズを弾く。
「あ」
このフレーズ、前のライブで聴いた。
「覚えていてくださったんですか?」
ギターから視線を上げて、キツネのような細い目が私を見た。
私は頷く。
「ライスパールという曲名です」
ユウは弦をピックで弾き、音をひとつ投げた。
「ライスパールは宝石言葉で、バランスのとれた愛情、と言われているんですよ」
「バランスのとれた愛情…」
「まぁ愛とお金はバランスが大事ってことです」
ユウがくつくつと肩を鳴らした。
ギター一本が、甘い甘い声で鳴く。
「──あなたは優しい人ですね──だからそれを目の前の人へ向けて──自分と隣人を傷付ける」
嫌になるほどに甘くて美味しい声で、ケイが歌を口ずさんだ。
アンダンテなテンポに甘い音。
歌詞だけが鋭く聴く人を貫いてくる。
「──いっそ優しさ捨てて自分だけを愛したらどうだ──」
音をなぞるケイの声が少し低くなる。
ここからは、聞き覚えのない歌詞だった。