エングラム



「──優しさにポイントカードなんてねぇ無駄だ──なんにも変わりゃしない──」

少しギターの音がトゲがでるような感じになる。

「──前払いしてんのが優しさだ──誰かが後からまた──」

そこでケイの声が消えた。
フェードアウトした、という感じに。

しばらくユウのギターが鳴いて、その曲は終わる。

「これ、ほとんどのライブとかでは歌わない部分」

ケイが言った。

「言葉には裏がある、ってことで、さ、みたいな」

しばらくカチャカチャと音がして、良いんじゃないか、シイが言った。

「シラン」

ベースを持ち上げたシイに呼ばれる。

──なんとなくさっきの事を思い出してドキッとした。

「あ、ありがとうございますっ」

彼の顔を見ないよう少し視線を伏せてベースを受けとった。

第四弦を弾きAの音を出す。

「あ、なんか違いますね」

最初弾いた時と手触りが違う音。

にこっ、とケイが笑う。

その笑顔が練習再開の合図だと気付いて、身を引き締めた。

随分久しぶりに、緊張感とやらを感じた。



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