エングラム
相手が距離をとって汚れると言うなら、汚さないように自分から距離をとる。
その方が辛くない。
その時の私は神経が擦り減っていて──それ故悪意には敏感で──オウ兄になど会いたくなかった。
「シーラーン」
とんとんととん、と独特の窓をノックする音。
「なぁにオウ兄」
窓は開けず、声だけで答える。
会いたくはないが、無視はできない。
無視はするのもされるのも怖い。
「コンビニで新作のデザートあったから二つ買った、一緒に食べよう」
窓の外のシルエットは、コンビニの袋を掲げてみせた。
「はい」
彼のそれを無駄にできなくて、突き放す心もなくて、私は窓を開けた。
「おー、ありがとう」
オウ兄はいつも座る場所に座ると、コンビニの袋からデザートのカップを二つ出した。
私もオウ兄の向かい側に座り、笑う。
「へぇ、美味しそう」
その笑みは力ない感じだと自分でわかっていて、本当に私ってキモいなぁとしみじみ思った。
「はいスプーン」
オウ兄からスプーンを受け取ると、蓋をあけた。
「いただきます」