エングラム
夏休みが過ぎた頃から段々とそれは少なくなってきて、気が付いたら止んでいた。
「シランちゃん読んでるその本、面白いよね」
そんなことを、お前の近くの席だと汚れる近寄らないで、と言ってきた女の子に言われた。
突然で──リアクションは、薄くって精一杯だった。
女子とも普通のクラスメイトの関係になって、男子ともそこそこ喋るようになった。
目に見える悪口も、悪意もなくなった。
それからの日々は平穏で、困ることも耐えるようなこともなかった。
躊躇いなく笑うことが出来るようになった。
ただ──。
人に、大丈夫?と聞けなくなった。
人に、話し掛けることが怖くなった。
人と一定の距離を置くようになった。
私は変わった。
「ねぇオウ兄、私って変わった?」
宿題を手伝ってくれているオウ兄に私は聞いた。
天然パーマの黒髪を少しいじってオウ兄は答える。
「…ごめん、気付かなかった」
いまいち日本語的には正しいとは言えない答え。
だがそれは、オウ兄から見た私は変わってないということ。
変わったのは私のナカだけ。
「聞いただけだよ、オウ兄」