エングラム
そうか。あぁそうか。
気付いてくれるわけないじゃん。
人の心を読めるわけないんだから。
「オウ兄」
「ん?」
「オウ兄はさ」
開いたノートに目を落とす。
くせが強い、私の文字。
「オウ兄は優しいよね」
そう言うと、オウ兄の腕が私に伸びてきた。
「そんなこと、そんなことないんだ」
頭に手が乗せられた。
優しいって言葉は人をある意味傷付けてしまうのだろうか。
オウ兄の笑顔が哀しかった。
なぜか、
私はどうすれば良いんだろう
そんな疑問が浮かんだ。
何も変わらない日々だった。
何も変えない日々だった。
ひたすら日々の延長線のままだったら良かった。
あれから私を取り巻くものが変わったように。
あれから私の心が変わったように。
何もかも、変わっていく。
「シラン、明日は暇?」
とんとんととん。
その音を連れて、オウ兄が私に尋ねた。