エングラム
空は青いってことを忘れるぐらいの灰色から出た。
「好きな景色だったりする」
オウ兄がそう言ったこの景色。
どっかの名所のように、綺麗な海も緑もなくて。
この建物自体特別高いわけではないから、他のビルが小さく見えるわけでもない。
ただ、けれど。
本当に自分は今ここで息をしていると。
純粋に、確認できるような場所だった。
「青空の向こうには何があると思う?」
「ブラックホール」
「……僕のテンション下げて楽しい?」
少し、ふざけた。
オウ兄のリアクションに、素直に小さく笑えた。
「人は飛べるのかもしれない」
羽根はない。
わかっているだろうにふざけてオウ兄は笑う。
「飛べるけど、飛ばないだけなのかもよ」
オウ兄は目を細めて私に笑みを向けた。
まだ手が触れたままだってことを思い出して──赤くなった。
「…お、オウ兄が言うならそんな気がするっ」
ちょっと素直に可愛くなろうと頑張った。
「シランはシランだから、同じこと思わなくて良いんだよ。君の体は君のもの。君の記憶も心もね」
その乙女なちっこい努力は無視して、いやに真剣な目で私は言われた。