蝉女

 強い日差しを顔に浴びて目を覚ました。
 習慣のように目をやった時計が示す時刻は10時半。大慌てでベッドを飛び降りてから、今日は土曜日だと気付く。
「なんだよ、もっと寝てれば良かった……」
 ベッドに戻ろうかとも思ったが、起きがけに激しい動きをしたせいですっかり目が冴えてしまった。なによりこの暑さではゆっくり眠ってなどいられないだろう。
 立て付けの悪い窓を開ける。窓から入ってくるのはむせかえるような熱気だけで、気持ちの良い風は少しも感じられない。
 仕方なしに扇風機のスイッチを入れる。空気を掻き回しただけの生ぬるい風が俺の肌を撫でていく。築35年の安いアパートにエアコンなんてものは存在しない。
 土曜の午前中に起きたところで時間を有効に使える方法など思いつかなかった。
 大学を卒業し、てっきりそのままこの地で職に就くのかと思われた友人たちのほとんどが地元に帰ってしまった。昨日散々怒鳴られている姿を見られた分、会社の同僚と連絡をとる気にもならない。学生時代に別れたきり彼女と呼べる存在の女もいなかった。
 完全に暇を持て余した俺は、とりあえず昨夜借りてきたアダルトDVDを観ようとプレイヤーをいじり始めた。
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