蝉女
 DVDをセットし、再生ボタンを押す。テレビ画面にAV女優が写し出されたところで、なにやら物音がした。
 特に考えることなく背後を振り返った俺は、そのまま動くことができなくなった。
 先程まで俺が寝ていたベッドのうえに、見知らぬ女が立っていたのだ。
 白いワンピースに肩までの黒い髪。背筋が急激に冷えたが、足はある。ちなみに裸足だ。
 それまでキョロキョロと室内を見回していた女は、俺と目が合うと表情が変わった。勢い良く腰を落とすと両手で俺の右手を包み込む。ぎょっとせずにはいられなかったが、女の手は温かかった。
「お探ししました!」
 いまにも泣き出しそうな笑顔で俺を見つめる女。どうやら幽霊ではないようだ。騒ぎ立てる心臓が徐々にもとの速さに戻っていく。しかし混乱する気持ちは拭えない。
「あなた様を探して一晩中飛び回っておりました。まさか大人になった翌日に再会できるなんて……」
 俺の手を握ったまま感慨深げに女は言う。昨日大人になったとは、ハタチになったということだろうか。それとも処女を捨てたということだろうか。俺のうしろでAV女優が作り物の喘ぎ声をあげている。
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