蝉女
 随分落ち着きを取り戻した俺は、このときになってようやく目の前の女をじっくり観察する余裕ができた。不細工ではないが、特に美人でもない容姿。丸襟のワンピースは少々レトロだ。身長はそんなに高くない。
 俺を探していた、再会できた、と女は言った。つまり俺たちはどこかで会ったことがあるということなのか。
 そしてもうひとつ、聞かなくてはならないことは。
「どこから部屋に入ったんですか……?」
 恐る恐る女に声をかける。やっと口を開いた俺に、女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はい、窓です!」
 窓。まど。マド。
 確かに玄関には鍵をかけていたし、そもそも玄関から入って来たなら玄関側を向いている俺の視界に入ったはずだ。ある意味女の答えは俺を納得させ、同時に疑問を増やした。
 俺の部屋は2階にある。2階の窓によじ登っていけるような足場はこのアパートにはなかったはずだ。華奢な見かけによらずアクロバットな動きをする女なのだろうか。
 困惑する俺にやっと気が付いたらしい女は、恥ずかしそうに一歩分退いた。ベッドのうえで三つ指をつきかしこまった様子で頭を下げる。
「申し遅れました。わたくし、昨日あなた様に助けていただいたセミにございます」
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