不思議の国のお伽噺。
mp.2 記憶の代償と、嫌悪される存在。
しばらく屋敷から離れ歩いていると、真っ暗な闇は、果てることなく広がっていた。
誰も、家からは出てこない。
誰が、いるかすらわからない。
そして、広がる闇に、私は新たな存在"白ウサギ"の想像をするのであった。
それほどまでに嫌悪される存在とは、どうゆうものなのだろう。
「あ、海」
結構な距離を歩いてきたらしく、私たちの歩く横には、海が広がっていた。
「チェシャ猫、少し寄っていかない?」
「…うん」
チェシャ猫がうなづくと、私は砂浜に走っていった。
「んー、はあ、久しぶりー!
そういえば、チェシャ猫とはじめてであったのも、海だったね」
「そうだね」
「あの時は頭の中空っぽで、すごく寂しかったけど、今はね、いろんな記憶が、ごちゃごちゃになるくらい頭に詰まってると分かる。
すごく、すごくそれが嬉しい」
「…うん」
チェシャ猫は、寂しそうに返事をした。
「でもアリスは、とてつもなく大きな代償があってもいいのかい?」
「へ」
「記憶と比例する大きさの代償を、いつもいつも払っている。
姫様の歪みだけじゃない。
アリスの精神的疲労も、そのうちにはいるんだよ」
「私のことなら、別に」
「うん。
アリスならそういうと思ったよ。
でもね、アリスが傷つけば、傷つく人間もいる。
同じぐらい傷つく人間もいるんだよ。
君の事を、愛してる人間とか。」
私は、チェシャ猫の言葉に凍りつく。
私が傷つけば傷つく人間もいる?
そんなの…
「アリス、後ろを向いて」
チェシャ猫が、指で後ろを指す。
私はおとなしくそれに従った。
「…!?」
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