不思議の国のお伽噺。
チェシャ猫は、私のことを後ろから抱きしめる。
ザアー・・・
ザアー・・・
海の小波の音が私たちの鼓膜を、やさしく刺激する。
「俺は、俺はアリスが大好きだよ。
愛している。」
「…私、も」
「誰よりも、一番愛してる。」
「う、ん」
「だけど、俺には…アリスに愛してもらう資格など、ない…」
「な、に言って」
「手を出して」
不思議に思いつつ、チェシャ猫が抱きしめた手を握っている手を出した。
「?なあに?」
手の上に乗せられたのは、トランプのような形をした、ロケット型のネックレス。
「それをあけるのは、アリスが本当につらいと判断したとき。
今は、まだあけるときではない」
チェシャ猫はそういうと、静かな声で、囁く。
「さあ、アリス。
お別れの時間だ」
「え?」
振り向こうとする顔を止められる。
そして、チェシャ猫が、ロケットネックレスを指差したとき。
チェシャ猫の指が、どんどんと、トランプに変わっていく。
サラサラと、トランプに変わっていく。
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