不思議の国のお伽噺。



「チェシャ猫…?」



今、目の前で起こっていることが理解できなくて、動揺することしかできない。



「え?な、なんなの?

チェシャ猫、何?」




いまだに理解はできないけれど、チェシャ猫がいなくなる。そのことだけは分かった。



「いなく、なっちゃうの?


ねえ…、まだ旅は終わってないよ!?
チェシャ猫がいなくちゃ旅は終わらないよ…!!!」



「大丈夫。きっとすぐに帰ってくるさ。」



まるで他人のことを言っているような口調だ。


私は、チェシャ猫の腕を振り解き、彼に向き直る。


どんどんと、体がトランプになっていく光景が私は素直に受け入れられなかった。



「いや、いやあ!!
行っちゃヤダ!!」


肩を掴むと、その部分もすぐにトランプへと変わる。
私のせいでチェシャ猫がトランプになるような気がして、急いで手を引っ込めた。



「私、本当にチェシャ猫が好き、大好き!!

いやだよ、チェシャ猫」



「本当に?



…彼よりも、かい?」











その言葉に、全てが凍てついたきがした。









私にとって、彼はまだあっちの世界で愛していた人間、だ。



まだ、その容姿も、性格も、何もかもが明らかになったわけではない。




それなのに、彼よりもチェシャ猫を選ぶなんてことはできない。




だってまだ、真実を明らかにしていないのだから。










でも、一つだけ分かる。




彼、という言葉を聞いて凍てついたということは、私は相当彼を愛し、依存していた。











私が、言葉を失っている間にも、チェシャ猫はどんどんトランプに変わっている。










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