不思議の国のお伽噺。
mp.5 鳥籠の外。
走って走って、たどり着いたそこは。
「ま、た海…っ!」
息が切れて前を見ると、少しずつ上がってきた朝日を、反射して光る海があった。
今の海に良い思い出はない。
何もかもを失う場所。
大好きな海は、いつの間にか最も疎む存在になってしまっていた。
「…っく…チェシャ、猫お…!!!」
私は手を一生懸命海の水で洗っていた。
そして、その海の水と混ざるように、涙も落ちていっていた。
会いたい。
今すごく君に会いたいよ。
「フフフ、アリス…みーつけた…?」
泣いていると、突然後ろから抱きしめられる。
振りほどこうにも、この気力ではそんなこともままならない
「フフフ、寂しい?つらい?
誰かの支えがほしい?
アリス。今君の心の中を埋め尽くしているものはなんだい?」
耳元で囁かれる言葉。私の心の中に深く沈みこんでくる。
「分からないのなら教えてあげるよ、アリス
今君の心を埋め尽くすもの。ソレはね…
虚無、憎悪、怒り、狂い…
負の感情ばっかりなんだ」
そんなわけ、あるはずない。
私は、空っぽではない。
何に憎んでいるわけでも、怒ってなどもない…。
狂ってるなんて。
「アリスは空っぽだよ。
分かるでしょう?
だって、アリスは何を覚えているの?」
「私は…私のことを…っ!」
「…アリスは何も思い出してなどはいないよ」
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