不思議の国のお伽噺。
栞は私を視界に捉えた瞬間タバコを落とし目をうるわせた。
私は教室の後ろにあるロッカーの上に座って様子を伺っている。
授業中の私の態度はいたってまじめだ。普通に授業を聞きノートをとり。時折栞の質問に答え、チェシャ猫からのちょっかいを流している。
「私はこんなことしてたわけねえ…」
不意に呟くと、栞や光輝その他の人間の肩がぴくりと跳ねた。
私の言葉は彼らには聞こえているのかしら。
愛莉の席の隣に立ち、ノートを覗く。本当に気づいてないのね。
それとも気づかない振りしてるだけ?
ためしに肩をちょんとつついても愛莉の反応はない。本当に分かっていないんだ。
体を起き上がらせ、周りを見渡す。チェシャ猫、シンデレラ、赤ずきん、眠り姫、かぐや姫。帽子屋、眠りねずみ、三月ウサギもいる。
今授業をしているのはてんちょーさんだ。
かぐやの姿を捉えた瞬間に、私は言いようのない恐怖に包まれた。
「あ…ぁ…ッ!!」
手の中に、もう一度あの時と同じ感触が戻ってくる。服でどんなに拭いても消えることはない。
怖くなって教室から走り去る。そして見つけた水道で手を洗った。
「消えて、お願い消えて、消えて消えて消えて消えてええッ!!!!!」
ごしごしと拭い、何度も石鹸を泡立てても手の中の感触は消えない。
私はあきらめて教室へと戻ろうとした。
「…あれは」
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