不思議の国のお伽噺。
「…?」
後ろから聞こえた声。
その声の主は、緑のローブを着た、あの人。
「僕のことは、レイと呼んで。
アリスは、どうして記憶を思い出そうとしないの?」
「!!」
緑のローブ、レイは、口元しか見えないが、思いっきり口角をあげ、言った。
私は目を見開き、そらす。
「何故、思い出さないの?」
「だって…もう私のせいで歪むお伽噺を見たくないもの…」
目を伏せ、座り込む。
あかずきんの2つの顔が、脳裏に浮かんだ。
まだ1つの物語しか見ていないのに…。
これ以上の酷い物語はみたくない。
すると、レイはいつのまにか背後に回り込んでいた。
全く気付かなかった私は、肩を掴まれ耳元で囁かれた。
「あの日のアリスは…とても嬉しそうだったね…」
心の中の、薄くて透明な壁が、音をたてて割れた気がした。
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