不思議の国のお伽噺。



気付けば、私の目の前には、チェシャ猫がいた。


心配そうに眉を下げ、私を見ている。



「アリス…


大丈夫かい?」



私はゆっくりと起き上がり、チェシャ猫に向き合った。



「チェシャ猫…



私、どうすればいいの?」



チェシャ猫は、頭を傾け、私を見つめる。



「私、違う世界で、大切なこと、いっぱい学んだんだよ…

それ、全部思い出したいっ…


でも、歪んだ物語と、それで苦しむ主人公はもう、見たくないっ…!!」



「アリス…」



俯く、チェシャ猫。
私も俯くと、チェシャ猫は、言葉を発してきた。



「僕たちは、アリスの意思が一番だよ。

少し間違っていたら口出しはするけれど、それでも第一に考えるのは、アリスの意思さ


アリスの優しいところが、僕たちは大好きだよ。

でもね、僕はアリスが、その優しさで苦しんで、泣いたりする姿を見るのが辛いんだ」



私は、顔をあげる。



「アリスがここで、旅をやめたいと言うなら引き返すよ。

僕のことを要らないと言うなら、消える。


だから苦しまないで、全部吐き出して、


アリスが思っていることをいってごらん?」



「私は…っ」



問いかけるような、チェシャ猫。
その優しい言葉に涙がボロボロ溢れる。
そして、私の口からは、〝意思〟がでてきた。



「全部思い出したいよ…っ!!!!」



「…うん」




「怖いけど、辛いけどっ!


思い出したい…っ!!」



空っぽの自分から抜け出したい。

チェシャ猫は、私を優しく抱き締めた。





「辛くなったら、言って。
苦しくなったら言って。

僕はそのためにいるんだから。」







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