不思議の国のお伽噺。
『…ダイナさん』
『ダ、イナ』
『…チェシャ猫が泣かせたのかい?』
ダイナと呼ばれる、オレンジの髪の青年は、目を細め、チェシャ猫を咎めるように見つめる。
オレンジの耳と尻尾を揺らす。緑の目がどんどん攻撃的になっていく。
チェシャ猫は、唇を噛みしめ、下を向いた。
『チェシャ猫のせいじゃっ…ないっ、よ』
オサナイワタシは泣きじゃくる。
ダイナさんは、私を優しく抱き締めた。
そして少し体を離し、私を見て微笑む。
妖しく、美しく、残酷に。
『猫をかばう必要なんてないんだよ
アリスは苦しければ苦しい、人のせいなら人のせい
はっきり言って良いんだ。
例え人に罪を擦り付ける形になっても』
ダイナさんは、私に何を求めているのかな。
私は、チェシャ猫のせいではないと、首を振り続けた。
そのとき、私の中に突然、走馬灯のようなものが走っていく。
すべて、ダイナさんのもの…
私が生まれたときからそばにいた、従者…兄のような存在。
それを伝えれば、ダイナは嬉しそうに笑ったけど、いつも言っていた。
『僕は飼い猫で充分だ』、と。
不意に、昔言われたのダイナの言葉が頭をよぎる。
『僕は生まれたときからアリスの従者』
『猫は主人の情報、生まれてからの環境を理解するため、主人より早く生まれる。
そして、主人が寂しくないよう寄り添って、そばにいて、最後は共に逝く。
それが従者の僕、猫の使命』
『最初は苦しかったよ。
だって、従者の猫は未来が見えるから。
それは先代からの力。
ずっと受け継いできた能力。
でも、未来の内容を誰にも伝えてはいけないし。
今は、三日後や一週間後の記憶しか見えないけど、いつかは自分の死ぬ日もすべて見える日が来る。
その日まで怯えて暮らしてたのは昔の僕。
…でも今は、
アリスの近くに入れることが幸せだ。』
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