不思議の国のお伽噺。




そんなある日、私は井戸の前にいた。



『アリス…?


そこ、は危険…だよ


こっちへ来て?』



『私、チェシャ猫と一緒にいることが楽しかった。
ずっとずっと…ここにいたいよ。


でも、私の存在は必要とされてないから、ここには必要ないのよね。』


『おれはッ!

アリスを必要としてるよ!』


『あたしも、チェシャ猫が必要だよ…!

でも、あの冷たい視線の中にいたくない…!
人殺し、化け物って…煽られたくない!


次、もし帰ってこれるなら…!

私は何も持ち合わせていないから

記憶も、全て…



思い出していくたびの代償は、友人の歪み。
もう、契約済みよ。


だけど、チェシャ猫。

帰ってこれたら。



また、また仲良く遊んでね。』






井戸に、まっ逆さまに落ちていく。




ところどころで、私の声が聞こえる。



『チェシャ猫!私はもう帰る!』


『チェシャ猫、あの王子キモくない?』


『もう!2人でいるときくらい無邪気になってよ!』

『なんで笑ってくれないの?
私が嫌いなの?』


『私のこと…キモチワルイって思う?』






最後に私がつぶやいた。




『さようなら、大好きでした』









目を閉じる前に、あなたの声。










『アリス!

俺、アリスが好きだから!

待ってるよ!ずっと!』








そして。





『逃がさない、傷つけさせない

アリスは僕が守るよ』







知らない誰かの声がした。











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