不思議の国のお伽噺。
おじさんに手を振ると、振り返してくれた。
チェシャ猫が、ゆっくりとオールを漕ぎ出した。
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あれからどれぐらい時間がたっただろう。
漕いでも漕いでも変わることのない、木々の様子に、私はため息を漏らした。
「アリス、船上は退屈かい?」
「…えぇ、とても。」
顔を背けて呟くと、苦笑した声がした。
「…」
オールを置いて隣に座るチェシャ猫。
私は驚き、肩を揺らした。
「こ、漕がなくていいの…っ??」
「漕いでも、あと30分くらいかかるからね。
少し、ゆっくりしても平気だよ。」
昨日から、私とチェシャ猫の間にあった、微かな距離が消えたような気がする。
私とってのチェシャ猫は、なくてはならない存在。それを記憶という形で再認識できた今。
前のような感覚ではなく、新しい感覚でチェシャ猫を見るようになった。
「アリスは」
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