不思議の国のお伽噺。
「俺はね、アリス」
「ん?」
「変わっていくことが怖かった。
少しの間離れてしまう、その少しの間で、人はたくさん変わっていく。
優しかった笑顔も、手の温もりも。
それが変わっていくことが怖かった。
一番怖かったのは、当たり前がなくなること、
当たり前のように隣にいたアリスが、いつのまにか大人びて、駆け出して消えていく。
そうなることが怖かった。」
少しだけ、アリスの手を強く握った。
「小さい頃はね、意見することはないから、命令されればずっと隣にいれる。
でも大人になれば、命令に逆らうことができるんだ。
そうして、隣から消えていくことが。
手を振りほどいてかけて消えていくことが、怖かった。」
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