ハフピスライン
返還前の魔力なら感じられる。けどこんな魔弾一発以下の魔力をどうすればいいんだ。

「くだらねぇ。魔力は自分のためにあるんだろうが」

シュドウが苛立ちながら言う。

自分のため。自分のため。自分のため。
……それは自分の力か。

この黒い狼も同じだ。魔力を纏っている、つまり魔力を自分の力に変えているんだ。それをオレもすれば……。

「はぁぁ!」

微量なもの。だけど魔力を纏うことが出来た。

「その程度で何をするつもりだ。死ね!」

鋭い牙が近付いてくる。
あ、やばい。全然身動きがとれない。

いくら魔力を纏えてもその量が少ないなら意味はない。この距離だと間に合わないだろうし、このまま死ぬ。
そう思った時、浮かんだのはこの前リーラの村で出会ったトリアイナだった。

刺々しい態度でジークを威嚇して、けどオレには優しい表情を一瞬見せた。トリアイナ。魔王の下で生きていても、あの表情を見ればトリアイナはあの時のままなんだ。
だからこそ救える。オレが絶対に救ってみせる!

オレのためだけじゃない。トリアイナのためにも魔力を集中させろ!

「あぁ!!」

叫んだ刹那、目の前は真っ暗になり気がつけばオレは立ちあがっていた。
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