ハフピスライン
やはりそうだ。この黒い狼はトリアイナのことを離す時だけ雰囲気が和らいでいる。
そんなことに気がついていないのか、そのまま話し続ける。

「当時ドラッシュラル・ヘルバーンとの戦いで負傷した私はこの洞窟に逃げ込んだ。そこに現れたのが止めを刺しにきたヘルバーンだと思った。けど来たのはトリアイナ様、一切の無抵抗で私の傷を癒しにきた。何度も抵抗し反撃したにも関わらず、ただ大丈夫と言って私の怪我を治療してくれた。助けられたから仕えようとは思わない、あれだけの優しく強いのにその力を他の者のためだけに使っている。それを聞いた時、私もこの力をトリアイナ様のために使おうと思った。だから私はこの場所で人も魔物も犠牲にすることなく、魔石を喰らい生き続けた」

「トリアイナが食べるなって言ったんじゃないんだろ? だったらなんで」
「トリアイナ様が人だからだ」

それだけで十分だった。それを言えるものなら信用出来る。

「そうだ、トリアイナは人間だ。だったらやっぱりここにいるのはおかしい。ここは魔界なんだから。だからオレは救いたいのかもしれない」
「好きにしろ、私はここにいる。それが私の誓いでもあり意地でもある」

「そうか、分かった。絶対に救ってみせるぜ。その時はお前も連れて行く。そういえば名前はなんて言うんだ? オレはライガ・フェイルノートだ」
「そうか、貴様がライガか。トリアイナ様は貴様のことも話していた。それも楽しそうに。
名前はあるがそれは捨てた。そうしてトリアイナ様にもらったのが、ルーワルフだ」

「そうか、ならルーワルフ。もう一度ここに来る。絶対にな」
「来れるものなら来てみろ。“いつでも”私は待っている」

そうしてルーワルフは魔力通行石を加えながら洞窟の奥に消えて行った。

そっか、いつでも待つか。なら約束は果たす。けどそれはトリアイナ自身の問題でもある。今の段階で断言できることではない。
< 89 / 195 >

この作品をシェア

pagetop