幼なじみは年の差7歳【完全版】
…高校の入学試験があったあの日。
私は男の子とぶつかって、教室に荷物をバラまいた。
「ごめん」と誰かが言った気がするけれど、頭の中が真っ白になってしまった私は、周りを見る余裕なんて無かった。
ただ、涙が溢れそうなのを我慢していた。
――――
「…受かったら二人で遊びに行こう。
俺なんかじゃ嫌かもしれないけど、俺はそのつもりで試験に望む」
「っ…」
――――
…私は、彼を見ることが出来なかった。
だけど彼の優しい口調が、私を落ち着かせてくれた。
でも、彼が誰なのかはわからない。だから…あの言葉が実現することは無い。
そう思ってた。
「…良明が、あの男の子…?」
「そうだよ。俺があの時お前とぶつかった奴。
思い出した?」
良明が…あの日あの時、私の目の前に居た…。
今、あの優しい声の男の子が目の前に居る。
…私の過去を知っている、男の子…。
「…お前が嫌がると思って言わなかった。
今のお前は、多分昔のことは言いたくないと思ったから」
「………」
…私は、過去の私を捨てた。
もう思い出すことは無いと、高校入学と同時に心の蓋を閉じた。
「…別に、だからどうだとか言うわけじゃねーけど、俺はお前と会えて嬉しかった。
ただそれだけだよ」
良明は言い、それからゆっくりと座りおにぎりに手を伸ばした。
私も同じようにゆっくりと座り、そして良明を見る。
「…私、過去を捨てた。
もうあの頃には戻りたくない」
戻りたくない、過去。
その理由を話すことはなく、また、良明も聞くことはなかった。
「今のお前、そのまんまでいいんじゃねーの?」
良明は笑顔を見せ、それからお茶を口に運んだ。