幼なじみは年の差7歳【完全版】
美和は何かに縛られているわけではないけれど、彼女を見た瞬間から動きが止まっている。
蛇に睨まれた蛙。まさにそれだ。
「コレね、凄くよく切れるの。素敵でしょ」
立ち上がった彼女はカーテンを切り刻んでいく。
簡単に切れていくその様を、楽しそうに見ながら。
…誰が見ても「普通じゃない」と思うその様子に、美和が後ずさりした。
そんな様子に気が付いた彼女が笑う。
「怖いの?」
ゆらりと近づき、美和の髪を手に取りナイフを当てる。
「ちゃんとお手入れしなきゃダメだよぉ?
じゃなきゃほら、ボロボロになっちゃう」
…整っていた髪がバラバラの長さに切られ、「無惨」という言葉が見事に当てはまる。
「私ね、欲しい物は全部手に入れてきた。この部屋もそう」
一通り髪を切ると、また元の椅子へと座り何かを飲んだ。
「今度だってそう。私は冬馬さんが欲しいの。
あなたなんかに冬馬さんは相応しくない」
ガタン、と大きな音と共に椅子が倒れ、一気に美和の元に寄る。
ナイフを美和の首元に当て、笑顔で言う。
「冬馬さんから離れて?
“はい”って返事をしてくれたら今すぐお家に帰してあげるから」
行動とは似つかない優しい笑顔。
美和は震えながらも彼女を見ている。
「…美和。“はい”って言え。
そうすれば家に帰れるんだ」
…そうすればもう、彼女は何もしない。
俺と美和が離れれば、それで安全が保証される。
だから、
「はい」って言ってくれ。
それが一番、安全に済む方法なんだ。
「…嫌」
だけど美和は、
彼女に言う。
「私は冬馬兄ちゃんから離れない。
私は、冬馬兄ちゃんが好き…だから、」
彼女の瞳が更に冷たくなる。
だけど美和は言う。
「死んでも離れない」