幼なじみは年の差7歳【完全版】
まだ、持ってたんだ…。
誕生日プレゼントとして贈った時計。確か、冬馬兄ちゃんが働き始めた年だった。
あの時、社会人の冬馬兄ちゃんに何を贈ったらいいか分からなかった私が相談したのは家族だった。
家族と買いに行った時計で、私が払ったのはほんの僅かな値段…それでも私の手からプレゼントした時計。
「…壊れちゃってるね」
針は変わらず時を刻んでいるけれど、ガラス部分にヒビが入ってる。
それにそっと触れた時…冬馬兄ちゃんの体が少しだけ緊張した時のように動きを止めた。
「この前会社で…ぶつけちゃって」
冬馬兄ちゃんの放つ言葉にも、どこかぎこちなさを感じる。
「…ちょっと、トイレ行ってくる。
他に良さそうなのあるかもしれないから、見といて」
ふっ、と私の手からすり抜けていった腕。
冬馬兄ちゃんはやっぱり少し緊張した顔で、私から目を逸らした。
(…なに?)
なんでそんな顔をしたんだろう?
緊張…してる顔だよね、あれは。
「…すぐ戻る」
腕時計を抑えるようにして冬馬兄ちゃんは離れていく。
何がなんだか分からない私は、ただ冬馬兄ちゃんの背中を見送るしかなかった。