依存~愛しいキミの手~

後ろ向き

泣いている私に、知美は何も言わずにいてくれた。


その間のおかげで、涙が止まり落ち着き始めた。


タバコに火をつけると、知美が口を開く。


「…さっき言ってた、春子さんって…?」


圭介の過去を勝手に人に話していいのか分からない。でも、話さないと私が悩む理由につながらない…。


美香みたいに大人にはなれず、圭介には言わないでねと前置きし、圭介の過去を話した。


「圭介くんにそんな過去があったなんて…」


そう呟いて知美は黙った。


少しの沈黙の後


「…昔ね、知り合いに聞いたことがあるの。人は後ろを向いて人生歩いてるって」


そう知美が突然話しだした。


「後ろ?」


「そう。後ろを向いてるから、今まで歩いてきた1本の道だけしか見えない。だから、過去を振り返って後悔ばかりする。あぁあの頃に戻れたら…って過去に戻ろうとする。でも、歩いて来た道に戻ることはできない。背中の先には何本も道があるのに、それを自分で見て確認することが許されない。だから過去に戻ることも先に進むこともできずに、立ち止まって考える。立ち止まることは、悪いことじゃない。先の道へ進むための選択肢の1つなんだ…そう聞いたの」


すごい…。


目からウロコの言葉だった。
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