依存~愛しいキミの手~

中学

「知美まじうざくね!?」


机に腰を掛け、赤いマニキュアを塗った指で鏡を高くかざすゆき。


上目使いで鏡を覗き、茶色く染めた髪を何度もなで跳ねを直す。


「まじうざいよね!佐藤くんも何であんな女構うのか不思議!」


ゆきを囲むように座るクラスメートが、同調するように次々と口を開く。


「あの女と口聞いたらシカトするからね」


眉間にしわが寄り、小鹿のように丸く大きな目を細めて取り囲む友達を睨みつけた。


「あすか、聞いてんの!?」


机に頬杖をつき、ぼーっと窓の外に咲く紫陽花を眺めていた私の意識を戻すように、大きな音を鳴らし机を叩いく。


肩を揺らし、目の前に腰掛けるゆきを驚いた顔で見上げた。


「え、ごめん、聞いてなかった」


苦笑いを浮かべる私に、ゆきが大きく溜め息をついた。


嘘。全部聞こえてた。


「だからー」


「あ、ごめん。ピッチ鳴ってる!」


ゆきの言葉を遮るように、ポケットの中のピッチを触る仕草をし立ち上がった。


ゆきが何か言っているのを聞こえないフリして、教室を出て行った。


鳴っていないピッチを片手に階段を下っていると、昨日まではなかった白いメッシュを入れた茜が階段を上ってきた。


「「おはよ」」


声がハモったことにお互い笑う。


「メッシュ入れたんだ?」


階段の手すりに寄りかかり、腰に巻いていたカーディガンのポケットにピッチを閉まった。


「今朝急に入れたくなって、さっき美容院行ってきたの」


あぁ、だから遅刻なのか。


相変わらずの茜のマイペースさに、笑いが出た。


「どっか行くの?」


階段の先にある教室を見た後、私に視線を移して聞いてきた。


「これ」


軽く握った手の中指と人差し指をくっつけて立たせ、口元に当てた。


「たまり場?私も行くわ」


上っていた体を反転させ、並んで一緒に階段を下りた。
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