また、いつか
「…あの、増田さん」

看護師さんの名前は増田京子さん。「京」と書いて、「けい」と読む。

「どうしたの?お姉さん、芦谷君の悩みなら何でも聞くわよ」
「すみません。ありがとうございます」
「いいの、これもお仕事よ。それで?」

自分で話し掛けておいて、まだ躊躇している僕。僕の意気地無し。

「……僕…その、実は…不倫した父と喧嘩別れしてしまって、母が病んでいるのが悔しくて、小唄に八つ当たりしてしまって」
「ふぅん、そっか。でもね芦谷君、石郷岡君だって、貴方に頼られたかったはずよ」
「違うんです、違う…そんなじゃない、そんな、小唄だけには八つ当たりなんてしたくなかったのに…!」

僕は激しくかぶりを振った。そうしたら少し、落ち着いてきた。

「…すみません…僕、カッとして八つ当たりしてしまっただけなんです。…本当は今日、小唄に謝りたかった」
「大丈夫、明日もきっと来てくれるわ」
「…そうだといいです」

ふ、と情けなく微笑んで、看護師さんにお礼を言った。

「ありがとうございました、病室には一人で行けますから」
「そう、気をつけてね」

母さん、僕は支えられています。母さんの体の調子はいかがですか。また、悪化していないと良いのですが。

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