雪の種
◇第3章◇ 根
静かな廊下を音をたてずに歩いた。
お母さんの育った家だから戻ってきた。
ただそれだけ。
本当は叔母さんのいる家になんか帰ってきたくない、でもお母さんがいるから、ただただお母さんが恋しくなった。
だから帰ってきたの……。
亮君だって一度はあたしに光を見せてくれたんだと思った、でもそれは一瞬でとてもはかなくて、7日間の命のセミと小さな光を一瞬だけ灯す蛍のように。
亮君が悪いわけじゃない。
あたしが過去から逃げた。
逃げなきゃ壊れてしまうような気がしたから――。