雪の種
そうすればあなたはちゃんと正しい道を歩めるから。
ねぇ、お父さん。
お父さんは亮君のお父さんのこと恨んでいないの?
ねぇ、お母さん。
大切な家族をバラバラにした亮君を許してる?
ねぇ、2人とも。
あたしは、どうしたらいいかわからないの。
亮君のお父さんが、そして亮君が、取り返しのないことをしてしまったのはわかってる。
あたしだって家族を奪った亮君を恨んでる。
でもね、なぜか胸がギュウギュウと苦しいの。
真実を知ってしまった今、これまで考えてきた思いも全てくつがえされて…、もう自分の中で整理がつけられないよ。
また…、1人で苦しむしかないんだよ。
いつだって1人で苦しんできたんだから。
「…翼」
足音が草を揺らし、背後からあたしを呼ぶ声がした。
誰かってことぐらいわかってる。
わかってるから、振り向けなくて…。
「…そのままでいいから、俺の話、聞いて。
翼が学校来なくなったのって俺のせいだよね?翼がいなくなってから俺、学校行くの憂鬱でさ。
だから…、翼に学校に来てほしい。俺の顔見たくないのはわかってる。わかってるんだ。
でも、翼を闇に放り込んだ俺が翼を放っておくわけにはいかない。勝手だって思われても仕方ない。」
違う。
勝手なのは…あたしなの。
わがまま言ってるのもあたしなの。
学校は敵だってわかってたのに、辛くなるのはあたしだけだから大丈夫って思ってた。
傷ついたのは…、辛かったのは…、亮君だったのに…。
「…ごめんなさい」
「そういうの言うなよ」
「…ごめんなさい」
「翼!」
柔らかく温かい手が細い手首にグッと触れた。
同時に寒気が背筋をゾッと走った。
「ごめんなさいっ…!」