いつかの花火【企】
「美味しくない…。」
誕生日に貰った紅いグラスに、お気に入りのビールを注ぐ。
夕焼けを映した海みたいに綺麗なグラス。
とても美味しそうなのに…
ビールの味がしない。
別に風邪も引いてないし、体調は良好。
だけど…味が違う。
今までこんなことなかったのに…。
やっぱり、私……?
そういえば、前にも一度だけ…食べても呑んでも美味しさを感じない時があった。
あの人とは、大学で出逢って、恋に落ちて…
お互い違う会社に入った。
環境が変わって時間がズレた。
それがキッカケで別れた。
もう一度告白もしたけどダメだった。
全部一緒だった。
一緒に居すぎて…
別れた後は世界から色が消えたみたいだった。
自分が自分じゃないみたいで…
だから逆にちゃんと食べなきゃと思って。
食べてたけど…味がしなかった。
あの時に似てる…。
あれから6年くらい…?
まるで進歩がないな。
今さら解っても……。
もう追いかけて行けるほど若くもない。
傷付いたら癒せない。
伝える勇気もない。