いつかの花火【企】



いつもの帰り道。
君の居ない帰り道。

会わない。

って決めると自然と少しだけ楽になる。
一ヶ月経って、やっとご飯の味が戻ってきた。
ビールも少しずつ飲みはじめた。

だけど、まだ青いグラスでビールは飲めない。





「おかあさん、おかあさん!ぱちぱちするはなびは?」

公園の隣を通ると女の子の声がした。
近所の子供達が花火をしている。

花火か…。

彼と一緒に屋上でやった花火を思い出す。
実際はそんなに経過していないが、もう半年くらい前みたい気分。
…だけど色褪せない。

公園に寄ると女の子は線香花火を手にしていた。

「おかあさんはやく!」

「はいはい。あ、さくら、花火におねがいしてごらん。パチパチしてるのが落ちなければおねがいがかなうかもしれないよ。」

「おねがいごと?うん。」

「いくよー?」

女の子のお母さんはそう言って花火に火を点けた。

そういえば私もお母さんに聞いたんだ、あの話。



私は女の子に自分を重ねた。

昔は確か…クラスで飼ってるインコが病気で…治るようにお願いした。
花火は落ちなくて…インコも元気になった。
だけど一時的に持ち直したインコは結局秋には死んでしまった。

今なら…

きっと彼に会いたいと願ってしまう。
自分で会わないって決めたのに…



「おかあさん!はなびおちなかった!かなうかな?」

想いに耽っているとまた元気な声がした。
花火は落ちなかったみたい。

「何お願いしたの?」

「ひみつーっ!」

楽しそうに笑っている。
あの子の願い事叶うといいな。

私は…
もう叶わないから…




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