いつかの花火【企】



「どうしたの?元気ない?」


咲夜が不安そうに聞いてくる。

今日は雨。
ますます気が滅入る。


「ん。何でもないよ。」

「ほんと?」

「うん。」

「ならいいけど…。」


嘘を付いた私の答えに不満そうに引き下がる。
嘘、バレてるかもな…。

お気に入りの薄い青のグラスにビールを注ぐ。
グラスには小さな泡がたくさん入っていて、まるで雨の唄が聞こえてきそう。

まさに雨の日にピッタリのグラス。


「はい。どうぞ。」

「ありがとう。」


まだ私のことを気にしているのか、咲夜はいつになく静か。
いつもなら会社とか友達の話、もしくは質問攻めなのに…。



「…ねぇ咲夜?」

「ん?」

「好き?」

「…!?な、何、突然?」

「…なんとなく。」

「な…?!…言わなくても解るでしょ?」

「解らない。」

「…………。」


あ。
困った顔してる。

この顔を見ると引き下がってしまう。


はじめはストレートだった咲夜だけど、最近は顔を真っ赤にして困ることが多い。
今までは本人に特に意識なくストレートだったみたい。
これが意識されてる証拠といえばそうなんだろうけど…

私も上手く伝えられる方ではないからこんな時は困る。


「ごめん、困らせて。」

「…や。あの…。」

「ううん。いいの。ごめんね。」


何でもないよ。
と笑って見せる。

私の笑顔に安心してか、彼もホッと息を漏らす。


私ったら…『お姉さん』しちゃってるんだろうな…。



< 33 / 42 >

この作品をシェア

pagetop